作品は以前から存じあげているし、画集も1つ2つ持っている。
でも、ご本人を見るのは初めてだった。
落ち着いた口調とはうらはらに、忌憚のない物言いをする方で、
若いアナウンサーに冷や汗をかかせていた。
途中から見たので、前半にあったと思われる画の話が聞けなかったのは
残念だが、楽しい話や、為になる話がいろいろ聞けて良かったよ。
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いろいろ
番組側としては作風に合う優しいキャラクターを
なんとかして安野さんに押し付けようとするのだが、
安野さんは、それをことごとくぶちこわす。
子供の頃、食べられなかった夢の食べ物として、
スタジオにほしぶどうが登場したのだが、
「“夢の食べ物”だと言ってるものの実物を、
目の前に出されたら興醒めじゃないか。
こんな事なら酒って答えておけば良かった」
と、まったく取り合わない。
そりゃそうだ。別に好物というわけでもなし。
小さな器に盛ってわざわざ出す意味が分からない。
プイッとそっぽ向くのも分かるってもんだ。
しかし、その後、
当時のほしぶどうのパッケージが登場したら、
「ちょっと見せて」と、アッサリくいついてた。
愉快なじいちゃんだなーと思った。
番組終盤、
「少年時代の戦争体験について教えて下さい」という問いに、
「100年に一度の大不況と言われてるけど、
ぼくは、この言葉を作った奴に文句を言いたいね。
100年どころか、ほんの60年前、
この国は本当になんにも喰うものがなかったんだから」
と、お答え。
また「絵から何を感じ取っていただきたいですか?」という問いには、
「ぼくは何でも自分で考えて自分でやらなきゃダメだと思うよ。
ぼくは頼まれて仏様を描く事もあるけど、
神や仏に何かを頼もうと思った事は一度もないよ。
拝む前にやれる事はやらなきゃダメ」
と、お答えになっていた。
どちらの話も主旨から微妙にズレているのだけど、
言わんとしてる事は分かり、しみじみ頷かされた。
最後にこういう対談番組にありがちの演出で、
座右の銘が書かれた色紙が出てきた。
命みじかし、たすきにながし
アナウンサーから意味を尋ねられ、
「意味なんてないよ。どう受け取ってもらってもいいよ」
とケロッと笑っておられた。
安野さんは、現在、肺ガンを患っておられる。
お大事に。