引っ越しました

2010年11月28日

ショートショート『箱の話』

人はそれぞれ1つの箱を持っている。

その箱の中身は自分では見る事ができない。
当然、中に何かを入れる事も取り出す事もできない。
ただ在り、何かが入っているという事だけは確か。

どんな素敵なものが入ってるんだろうという期待。
イヤなものが入っていたらどうしようという不安。
見てほしいような、見てほしくないような…

そういう箱。

たとえば

恋とは、その箱の中身を見せ合う事。
そうする事を許し合う、そんなようなもの。

自分が見られない自分の箱を相手に渡し、
相手が見られない相手の箱を自分が受け取り、
「せーの」で箱の中身を見る。
そして、中に何があったのかを伝え合う。

しかし

それは、必ずしも持ち主の望むモノではなかったりする。
認められない持ち主は「そんなふうに見えるのか…」と、
箱の中身でなく、見た相手にガッカリしたりする。

ガッカリさせた事が悲しくて、見た者は、
自分の想いを相手の箱に、そっと入れてみたりする。
それを箱の中身として、持ち主に伝えてみるも、
さらにガッカリさせてしまったり。

伝えても伝えても持ち主は納得しない。
「そんなものは入ってない!」
自分では見た事がないというのに。

やがて

許し合った関係が歪んでゆく。崩れてゆく。
渡し合った箱を、取り返し、突き返し、
恋は終わりを迎える。

渡した時より少し重くなっている。
それに気付けど、やっぱり見られない箱の中身。
正体の分からない重みに苛立ちを覚えながらも、
結局、また抱え歩いてゆく。

いつかまた、自分の箱を見せる事を許せる相手と、
巡り会える事を信じて。

いつか、“自分の望む箱の中身”を見てくれる相手と、
巡り会える事を夢みて。

だから

次に巡り会うその人が、
少しでも中身を良く見てくれるようにと磨いたりする。
ゴシゴシ、ゴシゴシ、懸命に。箱の表面を。

そんな事をしても箱の中身は変わらないというのに。

ゴシゴシ ゴシゴシ

ゴシゴシ ゴシゴシ

箱は思う。
磨かれながら、黙して思う。

人間はバカだと。




posted by さくらい | Comment(0) | 短編 | 更新情報をチェックする
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