店内を回り唐揚げ弁当とペットボトルの緑茶と新発売のプリンをレジへ運んだ。
独り身の寂しい晩飯である。
ピッ ピッ ピッ 「1025円です」
ジーンズのポケットからサイフをとりだし開いた。
あれ、札が1枚もないぞ。うっかりしていた…
小銭入れをまさぐり、まず500円玉を会計トレイに置いた。
次に100円玉を1枚、2枚と置いてゆく。なんとか5枚あった。
次は10円玉、1枚、2枚… 良かった、3枚あった。
1030円。これでサイフの中身は空っぽ、お釣りの5円が入るだけ。
ところが!
トレイに置こうとした男は手を滑らせ10円玉を落としてしまった。
なんてことだ!
入口の方へと転がってゆく10円玉を男は追いかけた。
ピロピロピロン♪
最悪のタイミングで自動ドアをあけ入ってきた大柄な男の脇をすりぬけ、
10円玉はコンビニの外へと転がっていった。
若い男は勢いあまって大男にドシーン。ぶつかってしまった…
大男はギロリと若い男を睨むと「なにをするんだ!」と胸ぐらを掴んだ。
「いえ、あの、これにはわけが…トホホ…」
一方、外にとびだした10円玉はきれいにカーブし、
コンビニの前の坂道をさらに勢いをまして転がっていった。
信号待ちのおばあさんと杖の間をすり抜け、
泣きながらしゃがみ込んでいる女の子の足の間をすり抜けた10円玉は
マンホールの蓋に当たって大きく跳ね、角から坂道の通りにでたばかりの
若い女性のパーカーのポケットにスポッと収まった。
女性はそれにまったく気付かず坂道をのぼりはじめた。
まもなく泣いている女の子に行き会った。
「どうしたの? 迷子になっちゃった?」
女性が優しく声をかけたところに、女の子の名前を呼びながらお母さんが現れた。
何度もお礼を言うお母さんにイエイエと手を振り、女性はまた歩きだした。
すると今度は横断歩道で転んでいるおばあさんに行き会った。
「だ、だいじょうぶですか?」
女性は駆け寄り助け起こすと向かいの歩道まで手をひいた。
何度もお礼を言うおばあさんにイエイエと手を振り、女性はまた歩きだした。
ようやく目的地についた女性。
ピロピロピロン♪
コンビニに入ると入口付近で、大男と若い男がもめていた。
女性はそそくさと通り過ぎ、店を回るといくつかの商品をカゴに入れレジに向かった。
店員は若い男が買った商品と払いかけの代金をひとまず脇へ寄せ女性のカゴを迎えた。
ピッ ピッ ピッ 「1025円です」
ジーンズのポケットからサイフをとりだし開いた。
あら、札が1枚もない。うっかりしていたわ…
小銭入れをまさぐり、まず500円玉を会計トレイに置いた。
次に100円玉を1枚、2枚と置いてゆく。なんとか5枚あった。
次は10円玉、1枚、2枚… ない。2枚しかない!
1020円。これでサイフの中身は空っぽ、ちょうど5円足りない…
女性がワタワタとパーカーのポケットをまさぐっているところに、
やっと大男から解放された若い男がヨロヨロとレジへ戻ってきた。
「店員さん、実はさっきの10円玉でサイフが空っぽでして…すいませんがプリンを…」
言いかけたところで、女性が「あ!」と声をあげた。
ポケットから出た女性の手には10円玉。
レジ台の上には、唐揚げ弁当とペットボトルの緑茶と新発売のプリン、
そして小銭ばかりの1020円が2組あった。
5円の重みは世界共通です。
ブログが面白いので、過去にさかのぼっております。
寓話、面白かったです。