引っ越しました

2010年12月11日

ショートショート『僕があいつを好きになった理由』

友達とケンカして負けた。
くやしい。

帰って父ちゃんに話した。
分かってもらえなかった。
くやしい。

家を飛び出し河原へ走った。

むくれていると視線を感じた。
顔をあげるとあいつがいた。

カエル。


しばらくボーッと見てて、こう思った。
「こいつは、いつも土下座してるなァ…」

腹がへっても動かず舌をのばしてエサをとる怠け者。
恋をしても腹をふくらましてゲコゲコと鳴くだけ。
敵にあっても戦わずピョコピョコとんで逃げる弱虫。

両生類だなんて偉そうだけど、
水陸どっちも捨てられなかった優柔不断な半端者じゃないか。

水場から離れすぎてひからびてる姿を、僕は何度も目撃してるぞ!
明らかに進化をさぼってる!

そういえば目もなんだかやる気なさそうだ。
“カエル”という名前からしてやる気なさそうだ。
やる気がない! ぜんたいてきに!

やい、カエル!
さては、それが申し訳なくて、いつも土下座なんだろう!
あー、かっこわるい。なさけないヤツめ!

なんだか調子が出てきたぞ。


家に帰ると、父ちゃんがニヤッと一言こう言った。
「おっ、もうケロッとしているな」

…ケロッと?

カチンときた。
ああ、カチンときたよ、正直ね!
なぜって今、さんざんバカにした「カエルみたいだ」と
言われた気がしたんだ。

でも言えない!
「カエルじゃない!」とは言えない。
父ちゃんはカエルみたいだとは言ってない。
僕が勝手にそう思っただけだ。
河原での事をわざわざ説明するのもバカらしい。
なんだかズルい、くやしいじゃないか。

よ〜し、いいだろう。
カエルじゃないと言えないならばカエルでいいさ。
でも“いつも土下座のなさけないヤツ”なのはイヤだ。
僕はカエルの良さを考えた。

カエルの良さ… だめだ、ちっとも浮かばない。
そりゃそうだ。
ついさっきさんざんバカにしたんだからな。

このままでは負ける!

負ける?

何に? 誰に? わからない。
でも、とにかく負ける気がしたんだ。
そして負けちゃいけない気がした。

意地になって考えた。
カエルの気持ちになろうとカエルの姿勢をまねてみた。

そして、ハッと気付いたんだ!
なさけない土下座だと思っていたこの姿勢、
実は跳び上がるために力をためてる姿勢だったんだ!

そう思うと、なんだかずいぶんやる気を感じた。
いつだって跳ぶ気満々のあいつがかっこよく思えた。

あはは、いいぞ、カエル!

なんだか調子が出てきたぞ。
カエルの姿勢から勢いよくピョンと立ち上がると僕は走り出した。
父ちゃんの後ろをケロッとした顔ですり抜けた。
家を飛び出し、走る走る。河原へと。

あいつ、まだいるかなぁ。




posted by さくらい | 短編 | 更新情報をチェックする
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