くやしい。
帰って父ちゃんに話した。
分かってもらえなかった。
くやしい。
家を飛び出し河原へ走った。
むくれていると視線を感じた。
顔をあげるとあいつがいた。
カエル。
しばらくボーッと見てて、こう思った。
「こいつは、いつも土下座してるなァ…」
腹がへっても動かず舌をのばしてエサをとる怠け者。
恋をしても腹をふくらましてゲコゲコと鳴くだけ。
敵にあっても戦わずピョコピョコとんで逃げる弱虫。
両生類だなんて偉そうだけど、
水陸どっちも捨てられなかった優柔不断な半端者じゃないか。
水場から離れすぎてひからびてる姿を、僕は何度も目撃してるぞ!
明らかに進化をさぼってる!
そういえば目もなんだかやる気なさそうだ。
“カエル”という名前からしてやる気なさそうだ。
やる気がない! ぜんたいてきに!
やい、カエル!
さては、それが申し訳なくて、いつも土下座なんだろう!
あー、かっこわるい。なさけないヤツめ!
なんだか調子が出てきたぞ。
家に帰ると、父ちゃんがニヤッと一言こう言った。
「おっ、もうケロッとしているな」
…ケロッと?
カチンときた。
ああ、カチンときたよ、正直ね!
なぜって今、さんざんバカにした「カエルみたいだ」と
言われた気がしたんだ。
でも言えない!
「カエルじゃない!」とは言えない。
父ちゃんはカエルみたいだとは言ってない。
僕が勝手にそう思っただけだ。
河原での事をわざわざ説明するのもバカらしい。
なんだかズルい、くやしいじゃないか。
よ〜し、いいだろう。
カエルじゃないと言えないならばカエルでいいさ。
でも“いつも土下座のなさけないヤツ”なのはイヤだ。
僕はカエルの良さを考えた。
カエルの良さ… だめだ、ちっとも浮かばない。
そりゃそうだ。
ついさっきさんざんバカにしたんだからな。
このままでは負ける!
負ける?
何に? 誰に? わからない。
でも、とにかく負ける気がしたんだ。
そして負けちゃいけない気がした。
意地になって考えた。
カエルの気持ちになろうとカエルの姿勢をまねてみた。
そして、ハッと気付いたんだ!
なさけない土下座だと思っていたこの姿勢、
実は跳び上がるために力をためてる姿勢だったんだ!
そう思うと、なんだかずいぶんやる気を感じた。
いつだって跳ぶ気満々のあいつがかっこよく思えた。
あはは、いいぞ、カエル!
なんだか調子が出てきたぞ。
カエルの姿勢から勢いよくピョンと立ち上がると僕は走り出した。
父ちゃんの後ろをケロッとした顔ですり抜けた。
家を飛び出し、走る走る。河原へと。
あいつ、まだいるかなぁ。