引っ越しました

2011年07月31日

ショートショート『本当にあった呪いのツイート』

しずえは、その日も遅くまで仕事だった。

やっと解放され家路を急ぐも、工事中の通行止め。
脇の立て看板によると迂回路は、かなりの遠回りだった。
ため息ひとつ、迂回路へと三歩進んだところでひらめいた。

「少し戻ったところにある墓地を通り抜ければ…」
一刻も早く帰りたかったしずえは、迷わず近道を選んだ。

夜の薄暗い墓地。
生あたたかい風にざわざわとゆれる木立の影。
立ち並ぶ墓石の間の狭い道をそろそろと進んでゆく。

心細さにゴクリと生唾を呑み込んだその時、
真後ろから強烈な視線を感じた。

前にでない足…  にじむ冷や汗…

おそるおそる振り向くと…


////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

そこには…

女の子の青白い顔がぼぅっと浮かんでいた。

ひっ!

よく見ると、それは墓前に供えられた日本人形。
こちらをじっと見つめ、静かにほほえんでいた。

「なぁんだ、人形かぁ…」

ほっとしたしずえは改めて人形をながめた。
普段見慣れないものだからか、興味をそそられた。
キレイなおかっぱ頭、つぶらな瞳、優しくほほえむ口。
少し汚れてはいるけれど、なかなかかわいらしい。
何かにいざなわれるように、抱っこしてみると、
なぜか、その人形が無性に欲しくなった。

考えてみれば妙なのだ。
しずえの部屋には人形のたぐいは1つも置いてない。
だが、人形の濡れたような黒い瞳をながめていると、
欲しくてたまらない気持ちを抑えられなくなった。
しずえは人形を抱いたまま墓地を抜けた。



帰宅後

しずえは早くも後悔していた。
玄関脇の棚の上に置いた人形を前に困惑…

「なんで持ってきちゃったんだろう…
 いくらかわいいからって。明日の朝、返しに行こう」

シャワーを浴び、ベッドに横になったところで、
スマートフォンが鳴動した。確認するとツイッターの通知だった。
自分宛のツイートがあると通知がくるように設定している。

しかし妙だ。
普段は自分がツイートした直後くらいにしか返信ツイートは来ない。
わざわざ名指しでツイートしてくるようなフォロワーいたかな…
通知によるとツイート主は「あやめの姉」という人。覚えがない。

ツイッターを起動し、内容を確認してみる。

ayamenoane @shizue あなた、いもうとを、つれていったわね

なんのことだか、さっぱりわからない。

shizue @ayamenoane 妹さん? どういう事ですか?

ayamenoane @shizue さっき つれていったじゃない

さっき? もしかして…

少し開いたリビングのドアから、ゆっくり玄関の方を見た。
棚の上で墓地から持ち帰った人形が静かにほほえんでいる。


shizue @ayamenoane あなた誰ですか? 変な事言うのやめてください!

ayamenoane @shizue いまから いもうとを むかえにいくから


え? 今から? 妹? 迎えにくる? 人形を? 姉? 誰?


ゴトッ


鈍い音をたて、棚の上の人形が落ちた。


ひっ


そうだ。こんな怪談、どこかで聞いた事ある。
だんだん近づいてくるんだ…
まさかそれを自分が体験する事になろうとは…

再びスマートフォンが鳴動。

ayamenoane @shizue あなたの マンションのまえ なう

「ちょ、早くない!? っていうか、“なう” って!!

スマートフォンを握りしめたまま、わたわたと立ち上がったしずえ。
とりあえず、間近だったベランダの鍵をかけ、カーテンを締めた。

「そうだ… 玄関の鍵… かけ忘れてる!

慌ててリビングのドアを開けるも、玄関には落ちた人形が…
あんなにかわいいと思ったのに今は恐怖しか感じない。
おそるおそる近づいた。床にうつぶせに落ちた人形を避け、
玄関の鍵をかけた。念のためチェーンもかけた。

と、その時、手の中のスマートフォンが再び鳴動。
おどろいて落としたスマートフォンが人形に直撃し、
そのはずみで、仰向けになったそれと目が合った。


ひっ


おそるおそる手を伸ばし、スマートフォンを拾い上げツイートを確認した。

ayamenoane @shizue マンションの エレベーターのなか なう

どうしよう、どうしよう。
そうだ、人形をドアの前に置いておけば勝手に連れていって…
と思った矢先、スマートフォンが鳴動。

ayamenoane @shizue あなたの へやのまえ なう

ピーーーーンポーーーーーン

チャイムが鳴った。


ひっ


ガチャ ガチャガチャガチャガチャガチャガチャ

つい今しがた、鍵をかけたドアノブが回っている。

ドア一枚隔てた向こうに得体の知れない何かがいる。

足下では乱れた髪の隙間からしずえを見つめほほえむ人形。


ひーーーーーーっ


しずえは、恐怖でもつれる足でリビングへと駆け戻った。
スマートフォンを握ったまま、玄関から一番遠い隅にうずくまった。

どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、本当に来ちゃった。


ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン

ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ


ayamenoane @shizue あけて

ayamenoane @shizue あけてよ

ayamenoane @shizue あけてったら

ayamenoane @shizue あけなさい

ayamenoane @shizue あけろ

ayamenoane @shizue あけろあけろあけろあけろあけらおkくぇkろ


ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン

ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ



狂ったように繰り返される、チャイム、ドアノブ、鳴動。

バンッ バンバンバンバンッ

ガリッ ガリガリガリガリガリッ



耳を塞ぎ、目を固く閉じ、しずえは叫んだ!
「もう、やめてぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」


ふいに部屋の外が静かになった。


鳴動。


ayamenoane @shizue わかった いいわ あけなくて


え?


ayamenoane @shizue いま そこに いくから


え?


あれ… あの怪談の最後… 確か… 確か…


自 分 の 後 ろ !!


まずい! 玉のような冷や汗が吹き出た。

そうだ! そもそもマンションの玄関はオートロック、
普通の人間なら入れるわけがない…

ドアの向こうの何者かは、
部屋の中に入ろうと思えばいつでも入れるんだ!

もし次のツイートが「あなたの うしろ なう」だったら…

本当に… 本当に… 自分の後ろに現れてしまう!


どうすれば… どうすれば… どうすれば… どうすれば…


そうだ!!


しずえは震える指で祈るようにボタンを押した。




【 ブ ロ ッ ク 】





シーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン…


何も起きない。ドアの外の気配が消えた。
ハッと後ろを振り返ったがそこには見慣れた壁があるだけだった。

しばらく、タイムラインを眺めていたが、
もうあのアカウントからのツイートがくる事はなかった。


「良かったぁ… いっちゃったんだ…」

















…と、思ったその時だ!










がしっ




突然 スマートフォンの上に、

小さな白い手がかかり ぐいっと下げられた

真裏から現れたのは、あの人形

乱れた髪 見ひらいた目 血まみれの顔

耳まで裂けた口が ガクガク と動いた










ねえ
 おむかえ
  まだぁ?






posted by さくらい | Comment(2) | 短編 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
めっちゃ怖かった((((;゚Д゚))))
でも、お墓に置いてある人形を普通は持って帰らないですよね…
迂回の時点からの呪いだったとか?(°д°)
でもメールではなく、Twitterのリプライで…とは驚きましたw
今時のオバケはすごいですね( ≧艸≦)
Posted by チコ at 2011年07月31日 20:46
「本当にあった」ってー うそーん( ̄▽ ̄*)
Posted by RIE at 2011年08月08日 00:39
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