やっと解放され家路を急ぐも、工事中の通行止め。
脇の立て看板によると迂回路は、かなりの遠回りだった。
ため息ひとつ、迂回路へと三歩進んだところでひらめいた。
「少し戻ったところにある墓地を通り抜ければ…」
一刻も早く帰りたかったしずえは、迷わず近道を選んだ。
夜の薄暗い墓地。
生あたたかい風にざわざわとゆれる木立の影。
立ち並ぶ墓石の間の狭い道をそろそろと進んでゆく。
心細さにゴクリと生唾を呑み込んだその時、
真後ろから強烈な視線を感じた。
前にでない足… にじむ冷や汗…
おそるおそる振り向くと…
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そこには…
女の子の青白い顔がぼぅっと浮かんでいた。
ひっ!
よく見ると、それは墓前に供えられた日本人形。
こちらをじっと見つめ、静かにほほえんでいた。
「なぁんだ、人形かぁ…」
ほっとしたしずえは改めて人形をながめた。
普段見慣れないものだからか、興味をそそられた。
キレイなおかっぱ頭、つぶらな瞳、優しくほほえむ口。
少し汚れてはいるけれど、なかなかかわいらしい。
何かにいざなわれるように、抱っこしてみると、
なぜか、その人形が無性に欲しくなった。
考えてみれば妙なのだ。
しずえの部屋には人形のたぐいは1つも置いてない。
だが、人形の濡れたような黒い瞳をながめていると、
欲しくてたまらない気持ちを抑えられなくなった。
しずえは人形を抱いたまま墓地を抜けた。
帰宅後
しずえは早くも後悔していた。
玄関脇の棚の上に置いた人形を前に困惑…
「なんで持ってきちゃったんだろう…
いくらかわいいからって。明日の朝、返しに行こう」
シャワーを浴び、ベッドに横になったところで、
スマートフォンが鳴動した。確認するとツイッターの通知だった。
自分宛のツイートがあると通知がくるように設定している。
しかし妙だ。
普段は自分がツイートした直後くらいにしか返信ツイートは来ない。
わざわざ名指しでツイートしてくるようなフォロワーいたかな…
通知によるとツイート主は「あやめの姉」という人。覚えがない。
ツイッターを起動し、内容を確認してみる。
ayamenoane @shizue あなた、いもうとを、つれていったわね
なんのことだか、さっぱりわからない。
shizue @ayamenoane 妹さん? どういう事ですか?
ayamenoane @shizue さっき つれていったじゃない
さっき? もしかして…
少し開いたリビングのドアから、ゆっくり玄関の方を見た。
棚の上で墓地から持ち帰った人形が静かにほほえんでいる。
shizue @ayamenoane あなた誰ですか? 変な事言うのやめてください!
ayamenoane @shizue いまから いもうとを むかえにいくから
え? 今から? 妹? 迎えにくる? 人形を? 姉? 誰?
ゴトッ
鈍い音をたて、棚の上の人形が落ちた。
ひっ
そうだ。こんな怪談、どこかで聞いた事ある。
だんだん近づいてくるんだ…
まさかそれを自分が体験する事になろうとは…
再びスマートフォンが鳴動。
ayamenoane @shizue あなたの マンションのまえ なう
「ちょ、早くない!? っていうか、“なう” って!!」
スマートフォンを握りしめたまま、わたわたと立ち上がったしずえ。
とりあえず、間近だったベランダの鍵をかけ、カーテンを締めた。
「そうだ… 玄関の鍵… かけ忘れてる!」
慌ててリビングのドアを開けるも、玄関には落ちた人形が…
あんなにかわいいと思ったのに今は恐怖しか感じない。
おそるおそる近づいた。床にうつぶせに落ちた人形を避け、
玄関の鍵をかけた。念のためチェーンもかけた。
と、その時、手の中のスマートフォンが再び鳴動。
おどろいて落としたスマートフォンが人形に直撃し、
そのはずみで、仰向けになったそれと目が合った。
ひっ
おそるおそる手を伸ばし、スマートフォンを拾い上げツイートを確認した。
ayamenoane @shizue マンションの エレベーターのなか なう
どうしよう、どうしよう。
そうだ、人形をドアの前に置いておけば勝手に連れていって…
と思った矢先、スマートフォンが鳴動。
ayamenoane @shizue あなたの へやのまえ なう
ピーーーーンポーーーーーン
チャイムが鳴った。
ひっ
ガチャ ガチャガチャガチャガチャガチャガチャ
つい今しがた、鍵をかけたドアノブが回っている。
ドア一枚隔てた向こうに得体の知れない何かがいる。
足下では乱れた髪の隙間からしずえを見つめほほえむ人形。
ひーーーーーーっ
しずえは、恐怖でもつれる足でリビングへと駆け戻った。
スマートフォンを握ったまま、玄関から一番遠い隅にうずくまった。
どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、本当に来ちゃった。
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ
ayamenoane @shizue あけて
ayamenoane @shizue あけてよ
ayamenoane @shizue あけてったら
ayamenoane @shizue あけなさい
ayamenoane @shizue あけろ
ayamenoane @shizue あけろあけろあけろあけろあけらおkくぇkろ
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ
狂ったように繰り返される、チャイム、ドアノブ、鳴動。
バンッ バンバンバンバンッ
ガリッ ガリガリガリガリガリッ
耳を塞ぎ、目を固く閉じ、しずえは叫んだ!
「もう、やめてぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
ふいに部屋の外が静かになった。
鳴動。
ayamenoane @shizue わかった いいわ あけなくて
え?
ayamenoane @shizue いま そこに いくから
え?
あれ… あの怪談の最後… 確か… 確か…
自 分 の 後 ろ !!
まずい! 玉のような冷や汗が吹き出た。
そうだ! そもそもマンションの玄関はオートロック、
普通の人間なら入れるわけがない…
ドアの向こうの何者かは、
部屋の中に入ろうと思えばいつでも入れるんだ!
もし次のツイートが「あなたの うしろ なう」だったら…
本当に… 本当に… 自分の後ろに現れてしまう!
どうすれば… どうすれば… どうすれば… どうすれば…
そうだ!!
しずえは震える指で祈るようにボタンを押した。
【 ブ ロ ッ ク 】
シーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン…
何も起きない。ドアの外の気配が消えた。
ハッと後ろを振り返ったがそこには見慣れた壁があるだけだった。
しばらく、タイムラインを眺めていたが、
もうあのアカウントからのツイートがくる事はなかった。
「良かったぁ… いっちゃったんだ…」
…と、思ったその時だ!
がしっ
突然 スマートフォンの上に、
小さな白い手がかかり ぐいっと下げられた
真裏から現れたのは、あの人形
乱れた髪 見ひらいた目 血まみれの顔
耳まで裂けた口が ガクガク と動いた
ねえ
おむかえ
まだぁ?
でも、お墓に置いてある人形を普通は持って帰らないですよね…
迂回の時点からの呪いだったとか?(°д°)
でもメールではなく、Twitterのリプライで…とは驚きましたw
今時のオバケはすごいですね( ≧艸≦)