小学生の高学年の頃の話。
とある日、社会のテストがあった。
ぼくはいつも通り猛勉強して臨んだんだ。
理科と社会は好きだったからね。
いい点がとりたかった。
出来は手応えあり!
密かにライバル視していた勉強が得意な女の子は
どうだったんだろうと気になっていた。
答案用紙の返却日。
結果は思った通り90点! ヤッタ!
猛勉強の成果が出たぞ!
さてライバルの子は何点かな〜と、
ちらっと覗き見ると同じく90点。
「チェッ ひきわけか〜」とぼくが言うと
「ちょっと〜勝手に見ないでよ〜」と彼女が言った。
それでも、ぼくは満足だった。
おそらくこのクラスで90点をとったのは、
ぼくら2人だけだっただろうから。
そこに先生から一言。
「桜井君と○○さん(ライバルの子)は放課後に残るように」
ハテ、なんだろう?
ぼくもライバルの子もきょとんとしていた。
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放課後
みんなが帰った後、2人だけ残った教室。
ぼくのいつもの席はその子の席の斜め後ろだったが、
なんとなく照れくさくて、少し離れて座っていた。
遅れて教室に入ってきた先生は、ぼくら二人の顔を確認すると
「んー… うん」と意味ありげにうなずき、教壇へのぼった。
そしてニコニコしながら意外な事を言った。
「これから2人には特別な社会のテストをしてもらいます」
特別な? なぜ、2人だけ…
そこで、ぼくはピーンときた。こんなふうに考えたんだ。
「はっはーん。さては先生が間違えて、
小学生には解けないレベルの問題を出しちゃったんだな?
それをぼくらが解いちゃったものだから、それがマグレなのか実力なのか
確かめようってワケだ? よっしゃ!やったるぜ!」
本来、面倒くさい事だが、なんせ“クラスで2人だけの特別なテスト”だ。
なんだか誇らしいじゃないか。まんざらでもない気分で臨んだ。
それに引き分けだったその子と決着をつけたい!という気持ちもあった。
ところが先生の「はじめ!」の合図と同時に解き始めた問題は、
予想してた “小学生には解けないレベルの問題” ではなかった。
90点とったテストと範囲は同じ。問題の内容が微妙に違うだけだった。
おっかしいなぁ?
それともぼくが気付かないだけで、ハイレベルな問題が、
まじっていたのかなぁ? えー、ぼくってそこまで秀才なん〜?
完全に調子にのっていた。そのテストも出来は手応えあり!だった。
さて、それから1週間経ち、2週間経ち…1ヶ月が経った。
おかしい。いつまで経ってもあの特別な答案用紙が返却されない。
先生に聞いても「あれはもういいんですよ」とサラッとはぐらかされた。
「もういい」ってどういう事? わけがわからない。
ぼくはこう考えた。
きっと普通の問題に紛れて気付かなかったハイレベルの問題を
ぼくは間違えてしまったのだろう。
だから先生は「あ、やっぱりマグレか」と判断した、と。
なんだかちょっと残念だったが仕方ない。
でも、それならそれで、気になる事があった。
ライバルの子はその問題に正解したんじゃないだろうか。
ぼくに内緒で答案用紙を返してもらったんじゃないか、と。
ライバルの子に「あのテスト返してもらった?」って聞くと、
「んーん… 返してもらってない…けど…」
なんだか浮かない顔で言葉をにごす。
何点だったか気にならんの?
ぼくらの勝負の決着は気にならんの?
そして… なんでそんな浮かない顔してんの?
(°д°)ハッ
ここで、はじめて気がついた。
“特別なテスト”の意味がわかった。
特別なテストをしたのは同じ高得点の二人だけ。
ぼくとライバルの子の席は斜め前・後ろの位置。
離れて座る2人を見て意味ありげにうなずいた先生。
微妙に違うだけで、範囲は同じだったテスト内容。
そして、このライバルの子の浮かない顔。
これらの事から導き出される答えは1つしかない。
なんてこたない。先生はカンニングを疑っていたのだ…
おそらく、間違えたところが同じだったのだろう。
間違え方も同じだったのかもしれない。
だから先生は疑った。カンニングを。
思いも寄らない事だった…
こんな事を意図も告げずに実施し、
その結果、潔白と分かっても「もういい」で済ます。
大好きな先生だったが、大キライになった。
「よくがんばりましたね。スゴイですね」と
ニコニコ笑って褒めてくれる先生を想像していた。
それすら忌々しかった。
また、ライバルの子はとっくに気付いていたのに、
ぼくはまったく気付いてなかった事もショックだった。
バカみたいな勘違いで浮かれてた自分に腹が立ったからだろな。
結局、勝負に負けたような気分だったしね。
やぶれかぶれな気持ちだったが、誰にも言う事ができず、
くやしい思いを噛み締めるしかなかった。
最初にもらった90点の答案用紙はビリビリに破って捨てた。
誰も見ていないところで、泣くしかなかった。
それから勉強をがんばらなくなった。
大人に言わせれば “そんな他愛のない事” で。
成績がどんどん下がっていくぼくを見て先生はどう思っていたんだろうな。
どうとも思ってなかったかもしれない。
自分がした事で生徒が深く傷ついたと気付いてすらいなかったかもしれない。
もしかしたら「やっぱりカンニングしてたのかも」と疑ったかもしれない。
今となってはわからない。
当の先生は、とっくに忘れているであろう、
子どもの頃のとってもイヤな思い出。