引っ越しました

2012年05月30日

ショートショート『沈黙の家』

むかしむかし、旅する二人がおりました。

ひとりは良い嘘つき、ひとりは悪い正直者。
二人の意見は事あるごとに喰い違い、いがみあってばかり。
それなのに、なぜか二人はいつも一緒にいました。

ある日、突然の雨にふられ、二人は、
近くにあった家で雨宿りさせてもらう事にしました。
その家には不治の病いを患うおばあさんが一人で住んでいました。

良い嘘つきは言いました「大丈夫。すぐ治りますよ」
悪い正直者は言いました「治るもんか。すぐ死ぬよ」
良い嘘つきは言いました「きみは、なぜ悪い事ばかり言うんだ」
悪い正直者は言いました「おまえこそ、なぜ嘘ばかりつくんだ」

いがみあう二人の様子をしばらく見ていたおばあさん。
ニッコリ笑って、こう言いました。


「この病いは、伝染病なのよ」




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2011年07月31日

ショートショート『本当にあった呪いのツイート』

しずえは、その日も遅くまで仕事だった。

やっと解放され家路を急ぐも、工事中の通行止め。
脇の立て看板によると迂回路は、かなりの遠回りだった。
ため息ひとつ、迂回路へと三歩進んだところでひらめいた。

「少し戻ったところにある墓地を通り抜ければ…」
一刻も早く帰りたかったしずえは、迷わず近道を選んだ。

夜の薄暗い墓地。
生あたたかい風にざわざわとゆれる木立の影。
立ち並ぶ墓石の間の狭い道をそろそろと進んでゆく。

心細さにゴクリと生唾を呑み込んだその時、
真後ろから強烈な視線を感じた。

前にでない足…  にじむ冷や汗…

おそるおそる振り向くと…


そこには…

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2011年04月09日

ショートショート『景気回復夢譚』

長引く不況にあえぐ国があった。
政治家や経済学者が労した策はことごとく失敗。

のしかかる不安に消費は激減…
それにより企業の収益は下がる一方…
それにより賃金減少、雇用低迷…
それは消費の減少に、さらに拍車をかけた。

そんな国のかたすみで、ごたぶんにもれず、
職を失い、貧しい生活を送る男がいた。

ある日、手狭なワンルームで仰向けに寝ころがった男は、
手にした紙幣を眺めながら、ボソリとつぶやいた。

「この1枚を使い切ったら無一文。ああ、不幸だ…」

ん? 不幸?

男は何かひらめきムクリと起き上がるとペンをとった。
そして、紙幣の余白に何か落書きをし、ニヤリと笑った。


2年後

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2011年03月31日

ショートショート『ウロボロス』


昼下がり、スーパーからの帰り道、
加奈子と、その息子裕一は公園の脇道にさしかかった。

「ねぇ、あのおじいさんは、どうして泣いてるの?」

ふいに裕一が公園のベンチを指差して言った。
加奈子がそちらに視線を移すも、ベンチには誰もいない。

「裕ちゃん、何言ってるの? 誰もいないでしょ」

「えー、いるよう。ママ見えないの?」

加奈子は首をかしげながらしゃがみ改めて尋ねた。
「ねぇ、裕ちゃん、どんなおじいさんなの?」

裕一はベンチの方から目をはなすことなく答えた。
「あのね、白いおヒゲでね白い服でね… 泣いてるの… あ、こっち見たよ」

ギョッとしてベンチの方へ振り返る加奈子。
しかし、やはりベンチには誰もいなかった…

なんだか、気味が悪くなった加奈子は、
裕一の手をひいて、そそくさとその場を去った。


その日の晩

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2011年02月24日

ショートショート『犯人はこの中にいます』

雷鳴とどろく嵐の夜、
薄暗い小さな部屋に6人の男女が集まっている。
互いに猜疑の目を向け合い、部屋の空気はピリピリと張りつめていた。

ふいに1人の男が口を開いた。

「ようやく… わかりました」

注目する5人。

「さきほど、この密室で起きた陰惨な事件…
 私は探偵として、慎重に推理を重ね、ついに犯人の特定に至りました。
 これから、皆さんにそれをご披露しようと思います」

5人は戸惑いの表情を浮かべながら視線を交差させた。

沈黙を破ったのは若いチンピラ風の男、
「ハッ、そんな事に何のイミがあるってんだ!」
「大きな声を出さないでよ。バカみたい」ホステス風の女が吐き捨てる。
「うるせえ! このアバズレ!」「なんですって?」

「まぁまぁ、お二人とも落ちつきなされ」
部屋の隅にちょこんと座った老人が2人を諭すも、
「じじぃは黙ってろ!」と若い男がすごんだ。

「いい加減にしないか」
落ちついた、それでいて力強い物腰の中年男性がゆっくりと立ち上がった。
「大きな声を出したところで、事態が変わるわけではないだろう」
大柄な中年男性が目の前に立ち塞がると、若い男はやっと静かになった。

「ま、ひまつぶしにはなるんじゃないかしら? 続けてよ探偵さん」

反対の壁によりかかり、騒動を冷めた目で見ていたスーツの女が、
やっと口を開くと、探偵は微笑を浮かべたままうなずいた。
そして焦らすように2歩あるいた後、振り返り言い放った。

「犯人はこの中にいます」


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2011年02月12日

ショートショート『うっかり愛』

とある寒い日の朝。

「じゃ、行ってくるよ」夫が笑顔で言うと、
「いってらっしゃい。気をつけてね」妻が笑顔で見送った。

駅に着いた夫が、会社に連絡を入れようと、
コートの内ポケットからエアコンのリモコンを取り出したちょうどその時、
妻はテーブルの上の夫の携帯電話をエアコンにかざしていた。

「おや」

「あら」

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2010年12月29日

ショートショート『悪いお年を』

うぷっ

電車から飛び出した女は、
そのままの勢いで時刻表のポールにへばりつき、
なんとか吐き気をこらえた。

 呑みすぎた…
 忘年会なんて行くんじゃなかった…
 早くシャワー浴びたい…

歳に見合わないかわいいハンカチで
口を押さえながら、女はさらに思った。

 これだけふらついてるんだから、
 肩を貸してくれるイケメンの一人や二人、
 いても良さそうなもんなのに…

肩を貸すどころか、避けるように、
素通りしてゆく人波を虚ろな目で睨む。

その眼光の鋭さには、忘年会の帰り際、意中のイケメンが、
別の女を送っていった事へのやつあたりも含まれていた。

 「つい先日、引っ越したんです。方向同じになりましたね」
 なんて言ってたから、てっきり送ってくれると思っていたのに、
 なんで、反対方向の女を送るのよ…

別れ際の「良いお年を」というさわやかな声を
忌々しく思い出し、女は眉間のしわを深くさせた。

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2010年12月13日

ショートショート『幽霊トンネルの真相』

「えっ? 水が ひとつ 多いんだけど…」

「…失礼しました」

ウェイトレスは置いたグラスをひとつ下げた。

グラスの数を間違えたのは、ウェイトレスにとって、
これがこの店でのはじめての接客だからではない。
ましてや彼女が三流大学に通う学生だという事も関係ない。

それ以前に間違いではないのだ。

店主から言いつかっていたのである。
「水をひとつ多く運ぶように」と。


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2010年12月11日

ショートショート『僕があいつを好きになった理由』

友達とケンカして負けた。
くやしい。

帰って父ちゃんに話した。
分かってもらえなかった。
くやしい。

家を飛び出し河原へ走った。

むくれていると視線を感じた。
顔をあげるとあいつがいた。

カエル。


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2010年12月09日

ショートショート『ノックの主』

台風が接近中の小さな町の片隅、
古い木造アパートの共同トイレで男はうなっていた。

部屋に帰ろうとするも、新たな便意に襲われトイレに戻る。
そんな事を8回も繰り返した男は、ついにトイレに篭城したのだ。

頭上の小窓を見つめながら、次の便意を待ち受ける。

窓を打つ雨音が、いやおうなく時を感じさせ、
無駄な時間を過ごしている事を思い知らされた。

だが、男には希望があった。


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2010年12月07日

ショートショート『10円玉の行方』

夕暮れ時、コンビニに若い男が入った。
店内を回り唐揚げ弁当とペットボトルの緑茶と新発売のプリンをレジへ運んだ。
独り身の寂しい晩飯である。

ピッ ピッ ピッ 「1025円です」

ジーンズのポケットからサイフをとりだし開いた。

あれ、札が1枚もないぞ。うっかりしていた…

小銭入れをまさぐり、まず500円玉を会計トレイに置いた。
次に100円玉を1枚、2枚と置いてゆく。なんとか5枚あった。
次は10円玉、1枚、2枚… 良かった、3枚あった。
1030円。これでサイフの中身は空っぽ、お釣りの5円が入るだけ。

ところが!


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2010年12月06日

ショートショート『キャンセルした男』

昼過ぎ、男が定食屋に入った。

主「いらっしゃーい」
男「天丼大盛りを頼む」
主「今、混んでまして。お時間かかりますが宜しいですか?」
男「かまわない。昼休みが終わるまで、まだ1時間ある」
主「そうですか。では、お待ちください」

店主は他の客の注文をこなした後、男の天丼を作った。

主「おまたせしま…あれ?」


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2010年11月29日

ショートショート『ワレワレワ』

僕は小さい頃、自分以外はみんな人間のふりした宇宙人だと思ってたよ。
いつ食べられるかとヒヤヒヤしていたんだ。

僕は逆だったなぁ。

え、どういう事?

僕は小さい頃、自分だけが宇宙人だと思っていたのさ。
自分以外はみんな人間。いつバレるかとヒヤヒヤしていたんだ。

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2010年11月28日

ショートショート『箱の話』

人はそれぞれ1つの箱を持っている。

その箱の中身は自分では見る事ができない。
当然、中に何かを入れる事も取り出す事もできない。
ただ在り、何かが入っているという事だけは確か。

どんな素敵なものが入ってるんだろうという期待。
イヤなものが入っていたらどうしようという不安。
見てほしいような、見てほしくないような…

そういう箱。

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